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自然界にない物性で波を操るメタマテリアル ー材料からデバイス、システムへー



光と電波の融合領域であるテラヘルツ帯において、電磁波の波長よりも短いサイズで、媒質や構造を人工的に特徴づけることによって、電磁波の特異な伝搬を生じさせる「メタマテリアル」が注目されています。


このブログでは、NEOレポート『THzメタマテリアル』の注目ポイントの一部をご紹介します!

 

未開拓の電磁波:テラヘルツ波


テラヘルツ(THz)波は可視光とマイクロ波に挟まれた周波数/波長領域の電磁波で、両者の性質を兼ね備えた未開拓の電磁波と呼ばれて久しいです。非破壊検査などのセンシング応用では一部実用化も始まっており、Beyond 5Gの通信応用など、ここにきて実用化の機運が高まっています。


自然界にない物性を発現できる人工材料:メタマテリアル


メタマテリアルは波長以下の微細構造により、負の屈折率や大きな異方性などの自然界の材料が持ちえない物性を発現する人工材料で、1964年に着想され、2000年に初めて実現された比較的新しい材料です。マイクロ波用小型アンテナなどで実用化が始まったところでも注目されています。


これらの応用分野であるTHzと、これからの材料であるメタマテリアは、サイズと機能の面で相性が良く、例えば、THz帯を用いるBeyond 5GではTHz波の直進性を補完するためスマートサーフェスとも呼ばれるメタマテリアルが多用されるのではと言われ、材料からデバイスおよびシステムレベルで活発な研究開発が行われています。

 

THzメタマテリアルの注目ポイント


ここでは、THzとメタマテリアルの概念を広くとり、今までにない材料物性、デバイス機能および機器システムの観点から見た注目ポイントを実例を用いてご紹介します!


ポイント① メタマテリアルが発現する新しい材料物性

ポイント② メタマテリアルが実現する新しいデバイス機能

ポイント③ メタマテリアルが構築する新しいTHz応用システム


ポイント①

▶メタマテリアルが発現する新しい材料物性

電磁波の波長より十分小さな人工構造物(エレメント)の集合で構成されるメタマテリアルは、負の屈折率や大きな異方性などの自然界にない物性を発現できます。伸縮自在のシートや自己組織化を利用した3次元構造など、材料や製造法の自由度も高まります。結晶中の格子振動など電磁波以外の波への適用も検討されています。


「特異な電磁波伝送媒体:円偏光による透過率制」

電磁波の導波路をメタマテリアルで囲むことで漏洩を抑制した理想的な伝送路を形成することが可能な技術です。伝送路の途中にメタマテリアルを挿入することで、特定帯域の電磁波のみを通すフィルタを実現することができます。また、メタマテリアルを構成するエレメントの形状や寸法で通過帯域を変えることができ、複屈折や異方性を持たせることも可能となります。

上記の例(US20210348969、ARIZONA STATE UNIVERSITY、Fig. 2A)は、鏡像を自身と重ね合わすことができないキラル型の立体的構造物をエレメントとしたメタマテリアルによる円偏光した電磁波を制御する技術です。対象とする電磁波は近赤外からテラヘルツ波です。右円偏光と左円偏光は共にキラルな偏光で互いに鏡像関係にあります。平行なナノグレーティングのメタサーフェスと、その上部に45度斜め方向に配向したプラズモニックアンテナ(メタサーフェス)から構成され、右円偏光の電磁波を入射すると、透過し、直線偏光に変えることができます。左偏光の入射は遮断される。上下のメタサーフェス間で多重の透過/反射が発生し、位相が変化するため、このような特性が現れます。

 

ポイント②

▶メタマテリアが実現する新しいデバイス機能

トランジスタなどの電子・光デバイスと複合させるとメタマテリアルの特性、例えば反射方向や透過帯域をダイナミックに変えることができます。電子・光デバイスでメタマテリアルの構造を再構成できるリコンフィギュアブル・メタマテリアルです。また、メタマテリアルで電子・光デバイスの特性を強化、例えば、センサの検出感度や信号源の効率を大きくすることもできます。


「高感度検出器(センサ)」

電磁波の発生デバイス(光源)や検出デバイスと組み合わせて、効率や感度を上げる応用も検討されています。液晶と組み合わせたカラー表示装置、電子デバイスの再構成可能な電磁シールドといった応用なども検討されており、今後様々な機能を実現するダイナミックなメタマテリアルが出てくるものと考えられています。

上記の例(US10288563(FLORIDA INTERNATIONAL UNIVERSITY), Fig. 7a)は、トロイダル共鳴に基づくセンサープラットフォームで、生体分子の迅速な検出などへの応用例です。トロイダル共振器エレメントは、高抵抗Si基板上の長方形の中央共振器(Fe製)と湾曲した非対称の2つの共振器(Ti製)で構成され、2次元アレイ状に並べられています。例えば、中央共振器が幅30μm、長さ240μmの場合、テラヘルツ帯(203GHz)に鋭いプラズモニック共鳴を発現します。この共振器と抗原-抗体の免疫反応を利用して、ターゲットとする生体分子を検出します。生体分子が特異結合することによって、共振周波数が低周波側にシフトします。Q値が変わらず共鳴の鋭さが変わらないので、検出感度を高く保つことができます。

 

ポイント③

▶メタマテリアが構築する新しいTHz応用システム

直進性が強く障害物のために通信できなくなるテラヘルツ波の「陰」のエリアを、反射方向をダイナミックに変えられるスマートサーフェスがカバーする新しい無線通信システムが、Beyond 5Gの有力候補となっています。テラヘルツ波を用いたセンシング/イメージングシステムや無線発電/給電における活躍も期待されています。



「スマートサーフェスを利用した無線通信システム」

メタマテリアルはBeyond 5Gを実現する上での不可欠な技術要素として注目されています。Beyond 5Gで利用される100GHz以上のテラヘルツ波は直進性が高く、途中にビルや樹木などの障害物があると基地局からの電波が端末まで届かない懸念があります。多数の基地局でなく、ダイナミックに方向を変えることができる反射板があれば、システムを経済的に構築することが可能となるとされています。

上記の例(US20190165850(METAWAVE), Fig. 1)は、その一例です。基地局からの電波をメタサーフェス(MRM)で方向を変えて端末に届けることができるシステムで、端末の移動に合わせて反射方向をダイナミックに変えます。スマートサーフェスあるいはリコンフィギュアブル・インテリジェント・サーフェス(RIS)と呼ばれ、多くの機関で研究開発が行われています。この例では、導電エリアとそれを囲むループを可変リアクタンス素子で接続したエレメントを2次元アレイにした構造で実現しています。スマートサーフェスをメタマテリアルとCMOSやHEMT、グラフェンスイッチの組合せで実現する方法も提案されています。また、メタマテリアルはアンテナのビームフォーミング機能をコンパクトに実現できる特徴もあります。

 

波を自然界にはない物性で操るメタマテリアル。プリント基板の電磁雑音を消す、鏡で赤外線を光に変える、地震波を迂回させるなど、従来はできなかったことが、メタマテリアルを応用することで実現しつあります。NEOレポートではTHzメタマテリアルに関するユニークな注目発明50例を掲載。これからのTHzメタマテリアルの応用展開の検討のために、ぜひご利用ください!


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